雪の時期に雪国に行き、火焔型土器で鍋を食べる。
ライター
望月昭秀(日本)
1972年生まれ。株式会社ニルソンデザイン事務所代表。縄文時代専門のフリーペーパー「縄文ZINE」編集長。道南縄文応援大使。 著書に新刊『土から土器ができるまで/小さな土製品を作る』(ニルソンデザイン事務所)、『蓑虫放浪』(国書刊行会)、『縄文人に相談だ』(角川文庫)、『縄文力で生き残れ』(創元社)など。
週末に新潟十日町市の雪国ツアーに参加してきました。 何度も十日町市には訪れていますが、雪の時期は初めて。 もちろん十日町市といえば国宝の笹山遺跡の火焔型土器が頭に浮かぶけど、全然それだけじゃないのです。 雪国の食に自然、大地の芸術祭、着物、もちろん雪。
と言っても縄文から。笹山遺跡で土器を見る。 この笹山縄文館に置かれている土器は、国宝に指定されている土器と同じ笹山遺跡から出土したもの。その差といえば、発掘した場所と時期が違うだけで、実は国宝に指定されているものと遜色のない土器もいくつかある。しかも学芸員がいれば触れる!
縄文服を着て雪の中の竪穴住居へ。 雪の竪穴住居もなんともいえない佇まい。中では縄文鍋の準備をしてもらっている。煙が住居から立ち上る姿も良い。縄文服は選べるけど、このくらいポップなのもいいなと思った。
縄文鍋は火焔型土器で作られる。 実際その火にくべられた火焔型土器の様子を見れただけでお腹いっぱいになれる。博物館で見る火焔型土器とは違う表情。炎の中に炎の土器。何か特別な食べ物が出来上がるようだ。
縄文鍋は醤油ベースの鮭の入った具沢山のもの。実際、同じものを普通の鍋で作って食べ比べると、火焔型土器で作った方が美味しいと評判だ。多分だけど、鍋の中で煙がまかれて香ばしい風味がつくんだと思う。 取り分ける匙は東京の下宅部遺跡から出たものを復元。これもすごい造形です。
鍋の味付けについて学芸員さんと話をしたのですが、まだ証拠は出ていないけれど、味噌、醤油は十分にあり得ると考えているそうです。塩はある。大豆もだいぶ前からある。特別な道具はいらない。あとは麹菌だけ。 今の検査の精度ならそれを探すことも可能だということで、これは本当に楽しみです。
その後、閉館後の十日町市博物館を貸切で見学。 ちょっとこれは特別な体験。閉館後の夜の博物館をツアー参加者だけで見学。学芸員の解説も貸切。ゆっくりと見学できる。外の雪が自然の防音装置となり博物館はしんとしている。国宝の笹山遺跡の土器はどれもすごいものばかり、ここだけで時間が過ぎていく。
話は前後するけど、この日のお昼は地元でも人気の農家レストラン「そばの郷 Abuzaka」でへぎそばと伝統料理のバイキングでした。 漬菜、煮菜、煮〆、いろんな漬物に山菜の天ぷら。全部伝統で全部美味しい。味噌豆は初めて食べる味でお土産にも購入。
旅に出るとバイキングに出くわすことがよくあるんだけど、個人的には、これをいかに綺麗に美味しそうに、そしてバランスよく盛り付けるかに心血を注いている。今回はかなり上手に盛り付けられたと思う。 ツアーじゃなくても十日町に行ったらここにご飯を食べに行こうと思う。
二日目は朝からブナ林を見に行く。ブナ林ファンがどのくらいいるかわからないが、十日町市のブナ林は「美人林」として有名なブナ林だ。 密集して植えられた二次林で、その間隔の狭さのおかげで、曲がらずにまっすぐに伸びるブナの木たち。雪がガッツリ積もっているので「美人林」の立て札が「美」に。
雪の中に倒れ込んで空を見上げるとこんな風景。気持ち良い。ブナ林は大体山の奥に行かないと見れないのだけど、ここ十日町市の美人林は車で行ける展示施設の歩いてすぐの場所にあるのでアクセスが良い。「ブナ林にアクセスが良い」というのもなんだか変な言い回しだけど。
「森の学校」キョロロという森の展示施設。 可愛い名前とは裏腹にキョロロの建物はめちゃくちゃ無骨。耐候性鋼板の胴体は古びた鉄骨のようにあえて錆させ、赤茶色に染まるが、深い雪の下で潜水艦のごとく重さ2000トンの加重に耐える強度を持つ。内側のガラス壁面に積もった雪が見えてなんかすごい。
実はキョロロはこの建物自体がアート作品にもなっていて、そびえ立つタワーの中は螺旋階段となって、エレベーターも灯もなく、ほとんど暗闇を10回分登らないといけないが、展望台の眺めは素晴らしい。 帰りの方が怖い。暗闇を降りていくのだが、螺旋階段を上から覗くと幻想的な景色が見れる。
1枚目、展望台から雪面を観察すると、雪エクボの中にうさぎの足跡を見つける。 2枚目、一目でわかる降雪量。今年ままだまだ。 3枚目はキョロロ内部。虫のポスターや森の生き物を観察できる。ZooMuSeeという超高解像度人間大昆虫写真データベースも面白かった。
「いろりとほたるの宿せとぐち」、囲炉裏で食べる郷土料理。 囲炉裏ではイノシシ鍋、御膳にはほとんど保存食の郷土料理をせとぐちの主人の雪国の暮らしや食事の話を聞きながら食べる。豪雪地帯であるここ十日町は、除雪車の入らない昔は冬になると雪に閉ざされ家で過ごす時間が長かったそうだ。
食事はほとんど秋に仕込んだ保存食でそれらがいちいち味わい深く美味しい。囲炉裏にさした焼き魚も最高。ヒレに付いた塩で味を調整しながら食べる。
縄文時代もこの地域は積雪量は変わらなかったと言われている。だから同じように冬は家の中で過ごすことが多かっただろう。
火焔型土器の分布を見れば、ごくごく狭い地域のみで作られていることがわかる。それはやはり雪に閉ざされ、他地域との交流ができる期間が短いということも関係しているのかもしれない。激しく特殊な土器の造形は閉ざされることで生まれたのかもしれない、と、想像する。
近隣の他村との交流もままならないほどの雪の中で、どんなことを考えたのか、囲炉裏を囲みどんな話をしたのか、そして何を作ったのか。 それこそが雪国の雪国たる所以なんだろうなと思った。
翠山での着物の絵付けの工程の見学や絵付け体験も楽しかったです。十日町市は実は着物の町としても有名。かつては越後縮という織物が盛んな場所だったそうで、それが今の着物産業の下地を作ったのだそうです。これも雪で閉ざされているからこその産業だったのかもしれません。
雪国は雪の時期に行ってなんぼかもしれない。興味のある方はぜひ。
ライター
望月昭秀(日本)
1972年生まれ。株式会社ニルソンデザイン事務所代表。縄文時代専門のフリーペーパー「縄文ZINE」編集長。道南縄文応援大使。 著書に新刊『土から土器ができるまで/小さな土製品を作る』(ニルソンデザイン事務所)、『蓑虫放浪』(国書刊行会)、『縄文人に相談だ』(角川文庫)、『縄文力で生き残れ』(創元社)など。